<おことわり:本日フィナーレまで続きます。←第55話からどうぞ>
「妙子叔母さんの話を聞いてもね。やっぱり・・・父が他の女性とつきあってるのは許せなかった」。
「うん・・・その気持ち、わかるよ」。
「けれどその夏の日にね。わたし姫沼に行ったの」。
「え?姫沼に?」
← ← ← ← ← ←
悦ちゃんを失ったわたしの夏休みは孤独だった。
京都では味わったことのない「ひとりぼっち」。
市営グランドの戦い以来、歓楽街に出入りすることも少なくなった。
が、時間を持て余すことはなかった。
なぜなら、この学校では、卒業課題が2年のときに言い渡されるからだ。
それは
自分の「ウェディングドレス」をつくること。
デザインは、日本画を本格的に習っていたわたしにとって、お手の物だった。
しかし、デッサンをしていると
どうしても思い出してしまうものがある。
井上くん。
あきらめたつもりでいたが、無性に声を聞きたくなって
とうとうわたしは、てもちぶさたにまかせて電話してしまっていた。
「もしもし・・・・井上さんですか?」
"はい。どちらさまですか?"
電話口の向こうは、妹の夕子ちゃん?
声が若い。
「あ・・・。あの・・・」。
井上くんは留守だった。
"兄は美奈子さんといっしょに姫沼に行ってます"
「え・・・」。
女性の名前。
しかも電話の相手に言うほどに「おなじみの名前」ということだろう。
"あの。どちらさまですか?"
くったくのない夕子ちゃんの声に
「あ・・・いえ。お留守ならいいんです」
わたしはまた名乗らずに受話器をおいてしまった。
考えてみたらあれから8年以上。
彼も高校生だ。
しかもあんなにかっこいい。浮いた話のひとつやふたつなければおかしいのだが
その間、ずっと「許嫁」として思い続けた自分の時間が、悔しかった。
ヒロシさん。
「え?姫沼っすかぁ?まぁ、こっからなら小一時間もかかりませんが。クラウンが手に入るかどうか・・・」。
「えっと。べつにクラウンでなくってもいいけど」。
「たまに断りもなく乗ってくんで困ってんですよねぇ~」。
親分が?
所有者逆転してないか?
「既得権ってやつですよ」。
ちがうと思う・・・。
が。
ヒロシさんは、またクラウンを盗んで来た。
「えっと~。俺の免許証・・・確かグローブボックスに・・・」。
免許証まで入れてんのかっ!!!
「あ。あったあった♪」
もうすっかりマイカーだ。
マイカーと化したクラウンのハンドルをにぎりながら、ヒロシさん。
「姉御。なんで姫沼なんぞに?また出入りですか?」
「ちがうの・・・。ちょっと知り合いがそこに」。
「え?沼入道っすか?」
「沼入道って・・・なに?」
「いやぁ。姫沼には主がいて、そいつが沼入道ってやつで。デカいらしいんです」。
デカいかも知れないが、なんで女子高生がそんなもんに会いにいく?
「あいつが出て来たら、さすがにあっしらでも・・・」。
会ったことあるのか?沼入道。
「そんなもんと知り合いなわけないでしょ?」
ヒロシさんは、少し沈みかげんなわたしに気を使っているのだろう。
つとめて明るく話す。
いい人なんだな・・・。
姫沼は、沼入道が出るというだけあり、寂しいところだった。
ほとんど明かりもなく、夜訪れるところではない。
と、思ったのだが、
「ここ、カップルの名所なんすよ」。
「え?そうなの?」
「もう少し先に行くと夜景のきれいなとこありましてね。ま、ロマンスコースですね」。
「そう・・・・」。
そうか・・・。暗がりを求めてる人もいるわけだ。
そこに・・・井上くん・・・。
わたしはそれを聞いて、いたたまれなくなり
「ん。ヒロシさん。ごめん。もういい。帰る」。
「え?沼入道は見なくていいんで?」
「うん。見なくていいの」。
「カップルは見てかないんですか?」
「見ないわよ!」
「え~~~~~!あ~~~んなことや、こ~~~んなこともやってますぜ?」
「ヒロシさんたちと一緒にしないで!」
だが。
運命はいじわるだった。
帰ろうとしたところに、向かい側からやってきたカップル。
その男性が
「井上くん・・・・」。
いっしょにいるのが美奈子さん・・・か。
女性のわたしがうらやむほどの美人・・・。
井上くん、笑ってる。
あんなに楽しそうに・・・。
あんなに幸せそうに・・・。
恋してる男の子の・・・目。
今度ばかりは、はやとちりじゃないみたい・・・・。
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「妙子叔母さんの話を聞いてもね。やっぱり・・・父が他の女性とつきあってるのは許せなかった」。
「うん・・・その気持ち、わかるよ」。
「けれどその夏の日にね。わたし姫沼に行ったの」。
「え?姫沼に?」
← ← ← ← ← ←
悦ちゃんを失ったわたしの夏休みは孤独だった。
京都では味わったことのない「ひとりぼっち」。
市営グランドの戦い以来、歓楽街に出入りすることも少なくなった。
が、時間を持て余すことはなかった。
なぜなら、この学校では、卒業課題が2年のときに言い渡されるからだ。
それは
自分の「ウェディングドレス」をつくること。
デザインは、日本画を本格的に習っていたわたしにとって、お手の物だった。
しかし、デッサンをしていると
どうしても思い出してしまうものがある。
井上くん。
あきらめたつもりでいたが、無性に声を聞きたくなって
とうとうわたしは、てもちぶさたにまかせて電話してしまっていた。
「もしもし・・・・井上さんですか?」
"はい。どちらさまですか?"
電話口の向こうは、妹の夕子ちゃん?
声が若い。
「あ・・・。あの・・・」。
井上くんは留守だった。
"兄は美奈子さんといっしょに姫沼に行ってます"
「え・・・」。
女性の名前。
しかも電話の相手に言うほどに「おなじみの名前」ということだろう。
"あの。どちらさまですか?"
くったくのない夕子ちゃんの声に
「あ・・・いえ。お留守ならいいんです」
わたしはまた名乗らずに受話器をおいてしまった。
考えてみたらあれから8年以上。
彼も高校生だ。
しかもあんなにかっこいい。浮いた話のひとつやふたつなければおかしいのだが
その間、ずっと「許嫁」として思い続けた自分の時間が、悔しかった。
ヒロシさん。
「え?姫沼っすかぁ?まぁ、こっからなら小一時間もかかりませんが。クラウンが手に入るかどうか・・・」。
「えっと。べつにクラウンでなくってもいいけど」。
「たまに断りもなく乗ってくんで困ってんですよねぇ~」。
親分が?
所有者逆転してないか?
「既得権ってやつですよ」。
ちがうと思う・・・。
が。
ヒロシさんは、またクラウンを盗んで来た。
「えっと~。俺の免許証・・・確かグローブボックスに・・・」。
免許証まで入れてんのかっ!!!
「あ。あったあった♪」
もうすっかりマイカーだ。
マイカーと化したクラウンのハンドルをにぎりながら、ヒロシさん。
「姉御。なんで姫沼なんぞに?また出入りですか?」
「ちがうの・・・。ちょっと知り合いがそこに」。
「え?沼入道っすか?」
「沼入道って・・・なに?」
「いやぁ。姫沼には主がいて、そいつが沼入道ってやつで。デカいらしいんです」。
デカいかも知れないが、なんで女子高生がそんなもんに会いにいく?
「あいつが出て来たら、さすがにあっしらでも・・・」。
会ったことあるのか?沼入道。
「そんなもんと知り合いなわけないでしょ?」
ヒロシさんは、少し沈みかげんなわたしに気を使っているのだろう。
つとめて明るく話す。
いい人なんだな・・・。
姫沼は、沼入道が出るというだけあり、寂しいところだった。
ほとんど明かりもなく、夜訪れるところではない。
と、思ったのだが、
「ここ、カップルの名所なんすよ」。
「え?そうなの?」
「もう少し先に行くと夜景のきれいなとこありましてね。ま、ロマンスコースですね」。
「そう・・・・」。
そうか・・・。暗がりを求めてる人もいるわけだ。
そこに・・・井上くん・・・。
わたしはそれを聞いて、いたたまれなくなり
「ん。ヒロシさん。ごめん。もういい。帰る」。
「え?沼入道は見なくていいんで?」
「うん。見なくていいの」。
「カップルは見てかないんですか?」
「見ないわよ!」
「え~~~~~!あ~~~んなことや、こ~~~んなこともやってますぜ?」
「ヒロシさんたちと一緒にしないで!」
だが。
運命はいじわるだった。
帰ろうとしたところに、向かい側からやってきたカップル。
その男性が
「井上くん・・・・」。
いっしょにいるのが美奈子さん・・・か。
女性のわたしがうらやむほどの美人・・・。
井上くん、笑ってる。
あんなに楽しそうに・・・。
あんなに幸せそうに・・・。
恋してる男の子の・・・目。
今度ばかりは、はやとちりじゃないみたい・・・・。
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- 『マスカレード』第57話 思い(3)
- 『マスカレード』第56話 思い(2)
- 『マスカレード』第55話 思い(1)
あれ? 一番?
はなちゃん がんばれ
きっといいことあるから!
姫沼の二人を花ちゃん見ちゃったんだ・・・ショックだよね。
でも冒頭からの会話の相手は・・・??
フィナーレが待ち遠しいっ
ぬ、沼入道w(笑
こんなんおったらコワイコワイw
花ちゃん、可哀想。。。
久しぶりにコメント少ないっす
ちょっとびっくりしたっす。
このあと井上君ふられちゃうんだったけ?
つらいね・・・・・・花ちゃんがんばれ
じゃもう一つの隠し絵は井上君じゃないのかな?
パソコン壊れてんのかなあ?
ほかの人のコメントが無い!
美奈子さんに会っちゃったんだね・・・
切ないね~ 花ちゃん・・・
2番?
がんばれ!
花ちゃんにとっては強烈にショックを受ける再会でしたね。
男でも好きな子が彼氏と歩いてるの見ちゃうとつらいからね。
がんばれ。
あれ?
ほかのコメなかったのに・・・
あの日 あの時
花ちゃんも姫沼にいたんだ
襲われたときは帰っちゃった後か
っとおもったら
あった!!
あ~ 良かった!
30分たってもなかったから・・・
ひとりぼっちのお花ちゃん。
井上くんは、心の支え、だったのにね。
さびしくて、せつなくて・・
そんな気持ちでウェディングドレスを縫うのは・・
つらすぎます・・
それでも、完成させることができたのって、すごいね。
これからどうなるのか・・ドキドキです。
え~っ?よりによって井上くんと美奈子さんの遭遇~
沼入道のほうがまだマシだったかも(泣
え~!そんなシーンを見ちゃったら辛いですよ…。
冒頭の会話は回想してる感じですね?
これからも謎が明かされていくんですね。気になる!
そっか!見っちゃたか。あの。井上くん。
頑張ろうぜ、花ちゃん。
切ない気持ちで縫い上げたウエディングドレス…
井上くんの前で着れてほんとによかったね!!
冒頭部分の会話のお相手は、あの方でしょうか…
だったらいいなぁ…
自分の思ってたこと、考えたこと、花ちゃんの言葉で本人に伝えられてたらいいな。
はなちゃん…辛いね…
花ちゃん、これはツライね。これからどうなるんだろ?
沼入道、西条とどっちが強いのかな?(笑)
花ちゃん、二人の姿を見てしまったんだね。
でも、『ずっと「許嫁」として思い続けた時間』
それはそれで、素晴らしいものだよ。
その時の『自分』も愛してくださいね。
>「父が他の女性とつきあってるのは許せなかった」裏を返せば花ちゃんの父さんに対する愛かな。
ヒロシさん、女子高生に「カップルは見てかないんですか?」は、普通言わないですよ。
僕は、まぁ冗談なら言・・・そっか、冗談ですよね、ハッハハ冗談、冗談
コレはつらい……。
痛い程花ちゃんの気持ちわかります。
経験無いけど。
ここまで井上君を・・・。
美奈子さんは花ちゃんにとってどんな存在になったのだろう・・・。
井上君は花ちゃんのことを覚えているのだろうか・・・。
うぁ!
一番を狙ってずっとパソコンつけてたのに・・・・
お風呂入ってる隙に更新されてる・・・・
・゜゜・(>A<)・゜゜・
自分も花ちゃんと同じような状況にいるから、
結構心が痛い。
頑張ろう、花ちゃん・・・・
うぅ…花ちゃん切ないですね
ツライ気持ちが伝わってきます…
自分の学生時代の恋愛を思い出してとても切なくなりました(;_;)
花ちゃんには自分が納得するまで恋を貫いて欲しいです!
ヒロシさんいい人ですね
・・・人のクラウンを乱用するけど
そんな時から会ってたんだ!
井上くんに。。
そんな形で。。
何てこと。。。。
正直、花ちゃんに今までそれほど感情移入できなかったんです。どちらかというと、井上くんや、軍団メンバーの肩持ってたから、気持ちがそっちにあったというか。
でも、この話見て、花ちゃんがどんなに井上くんを好きだったか、すごく心で感じて、一気に応援したくなっちゃいました。
恐らく叶わぬ恋だと思うんだけど、花ちゃん、キラキラ輝いてるな、って、とても羨ましく思います。
今度も早とちりだから!(泣)
井上くんは嵐の日の女の子を求めてるんだから!(泣)
花ちゃん、姫沼に行って井上君と美奈子さんを同時に見ちゃってるんですね。辛いだろうなぁ。
それにしてもヒロシさん、組長が勝手にクラウンに乗って行く、の下りには噴きましたw
残酷な卒業課題・・・
つい最近まで夢の対象だったのに(泣)
ヒロシさんの無神経な言葉もヒロシさんがいい人だけに哀しい(泣)
これだけ日常的に使っててジロさんに至ってはセカンドハウス化してるんだから、既得権生じますよね?え?駄目?(笑)
思い焦がれている井上君の幸せそうな笑顔を見るのは辛い事ですね花ちゃんにも幸せになって欲しいです!
辛かったとき、ずっと心の支えにしてきた“許嫁”の二文字。
それが、音を立てて崩れていく・・・。
その一方で、卒業課題は“ウェディングドレス”。
運命って、残酷・・・。
花ちゃん、早とちりではないと言いたいけれど…。
好きな子の笑顔が自分に向いていないのを見るのはつらいね。
花ちゃん、切ないなぁ、、、、
東北にはじめて来た時に
電話ボックスで「ひとりぼっち」だと泣いてた花ちゃん。
なんだか、今は、それ以上に孤独な感じがします。
目の前に井上君がいるのに・・・、
見ているのは、自分じゃない。
あの時「ひとりぼっちじゃない」って言ってくれた
井上君の笑顔が皮肉にも花ちゃんをますます孤独にしているようで
つらいっす。
花ちゃん可哀想
ライバル(?)にかなわないって確信しちゃった時ってつらいですよね><
花ちゃん、生き抜いて!!
花ちゃんはまっすぐに井上君のこと思ってるんですね
沼入道ってw
そうかぁ、花ちゃん見ちゃったんだね。
俺は、カップルのあ~んな事やこぉ~んな事の方を見るけどな。
井上君の「恋する男の子の目」が向けられているのは自分にじゃない。
花ちゃん、辛いね。切ないね。胸が痛みます。
花ちゃん…切ないけど。。
きちんと伝えなきゃ伝わらない事もあるんだよ~
後悔だけはしないでほしいから…
ヒロシさん いい人だなぁ。気を使ってじゃなく、天然か?!
花ちゃん あきらめちゃダメ!!
いままで想いつづけたんだから!
そういえば、想われつづけてんのに、気づかず、泣かせ、あげくに人妻にふらふらしていたボンク…もいたなぁ~
え?そのまますれ違い?
ん~サラダの国からきた娘。。
現実を目の当たりにすることで
気持ちに整理がつくなら、どんなに手軽なものか。
忘れようと一針一針思いを込めて
卒業制作を作り上げても
その思いが昇華されることはなく、
サラダの国から来た娘作戦を決行したんですね。