ぼくたちと駐在さんの700日戦争

修学旅行の朝。

早朝の空気のはりつめた感じ。

大好き。

引率は各クラス担任と、学年主任、そしてどういうわけか生活指導の工藤先生。
普段、工藤先生は引率されないのだそうだが、メンバーを顧みれば「本年度は例外的に」もうなづける。

「はい。全員、揃いましたかーーーーー」

「先生、まなみちゃんがオシッコ行ったきり、もどってきませ～ん」
「あすかちゃんもオシッコ行ってもどってません」
「まりんちゃんはウンコで～～～す」
「マコちゃんもウンコ～～～」
「みさきちゃんもウンコ！」
「はるちゃんもウンコです」

「あらあら。今年はウンコに行く女子生徒が多いのね・・・家でして来なさいってあれほど言ってあったのに」

「トイレ少ないんです。先生」
「伸子ちゃんは下痢してます」
「さやちゃんはベンピです」

「そ・・・そう・・・。長そうね・・・。さやちゃん・・・。男子は？」

「公明くんが母の日のプレゼント置きにもどりました～～～」
「・・・母の日・・・・なんで今頃？」

「佑樹くんは、朝ドラ見てから来るそうです」
「・・・佑樹くんは置いて行きましょう」

「聖くんが普通の登校準備で来てます！」
「聖くん。今日は修学旅行って言ってあったでしょ？」

「先生。健吾くんがサッカーボール持って来てます！」

「健吾くん。サッカーボール、修学旅行に持って来ちゃダメでしょ？」

「ボールは魂だぜ！」

「じゃ、アンタは魂と一緒にここに残りなさい」

「サッカーのことは忘れました～！」

「先生！洋平くんが飼い犬乗せててジャマです！」

「洋平くん、犬はお留守番でしょ？」

「だって、ともだちなんです」

「おともだちでもダメ」

すったもんだの出発。
（まぁ。三流高校の修学旅行の出だしなどこんなもんだ）

でも、なんと言っても並じゃなかったのは、修学旅行の出発にパトカーが出動したこと。
前代未聞。
むろん目的はカレたちだった。

バス、電車を乗り継ぐこと10数時間！
京都着は夕刻。
西条くんが、行きと京都市内でのバスで吐いたことを除けば、思ったよりはずっと無事な旅だった。
新幹線内では、鉄道公安員の人を見かけ、カレたちがなにかしでかさないか不安でしょうがなかったが。

わたしとすれば、3日目に組まれている「自由行動」。この日が最も楽しみな日だった。
理恵と京都駅で待ち合わせをしたからだ。
事情を知って、班のみんなも賛成してくれた。
なんと言っても、わたしの班に西条くんもいたからだが。

わたしが西条くんと同じ班になったのは、(先生からすれば)「お目付役」というニュアンスが強かったように思う。
クラスの中で、わたしは、西条くんに「言うことを聞かせられる」貴重な存在だった。

最初の宿に到着と同時に、夕食。

この夕食が憂鬱。
なんでって、みんながTシャツに着替えるからだ。

そう。
時代遅れもはなはだしいスマイルTシャツ・・・。

でも、カレが選んでくれたのだから。
それも焼きもちイッパイで選んでくれたのだから。

言い聞かせてはみるものの、

「え～～～～～！なに～～～～～！和美～～～～～。そのTシャツ～～～～～！」

めっかった・・・・。とたんに予想通りの反応。

「べ、別にいいでしょ？Tシャツがどんな柄だって」

「うーん・・・。でも自由行動の日は別なの着るんでしょ？」

「えーーーっとーーーーー」

それが、4枚ともこの柄なんですけど・・・。
すでになんかの罰ゲームにも近い仕打ちだ。

が。

この時、カレのクラスのナナミちゃんが、わたしを呼びに来た。

「和美ちゃん、呼んでるよー」

「え？誰が？」

なんとカレ！だった。

「和美！ちょっと来い！」

カレは、非常階段の所まで、人目をはばかりながらわたしを連れて行くと、

いきなり、

「和美！脱げ！」

「・・・・・え!?」

こ・・・こんなとこで？

「いや。トイレでいいから、そのTシャツ、脱げ！」

「え？どういうこと？」

「他の柄持ってきてるか？」

「持って来てるわけないでしょ？」

「え～～～～～～！全部スマイル～～～～～？アホか？」

「君が選んだんでしょっ!!」

「あ。そうか・・・」

あ、そうかじゃないよ！

「じゃ、全部取り替えろ」

「取り替えるって・・・なにと・・・？」

言うなり、わたしの目の前で、自分が着ていたネコ柄のTシャツを脱ぎ出した。
いきなり上半身裸！

「これっ！早くっ！」

つまり。カレが持って来たTシャツと、スマイルくん4枚を取り替えろ、ということらしい。

「う、うん。わ・・・わかった」

わたしはカレに言われるまま、トイレでTシャツを取り替えた。

当たり前だけど、うれしかった。
カレのジャージの時もうれしかったけれど。
肌着であるTシャツは、ついさっきまでカレを包んでいるわけでー。

鏡に、カレのTシャツを着たわたしを映してみた。

カレは細いので、女のわたしが着ても、サイズに不都合はない。

　けっこう似合ってるゥ～。

それにしても。人には、虫もつかないスマイルTシャツを選びながら、
自分は、いかにも女子にウケそうなネコ柄ってどうよ？

まぁいいか。
わたしはそれどころじゃないほどに舞い上がっていた。

「これ・・・・」

わたしが自分のついさっきまで着ていたスマイルくんをわたすと、カレは大急ぎでそれを着た。

それだけでも胸が熱くなっちゃうのはどうして？

「でも。どう・・・したの？反省したの？」

「え？うん。まぁね」

「？」

わたしは、カレが、自分の選んだ「スマイルTシャツ」を申し訳なくなったのかと考えたが。
事情はまるでちがった。

夕食の食堂大広間。

案の定、カレが着たスマイルTシャツはちょっとした話題になっていた。

「なんだオマエ、それ～～～～～」
「アハハハ。だっせ～～～～～～～」

「西条とペアじゃん！」

そう。なんと、西条くんもスマイルTシャツだった。

カレは、わたしのサイズでも合うけれども、上半身のたくましい西条くんに、わたしの物は合わない。
つまり。西条くんは、純粋にスマイルTシャツを持って来ていたのだ。

「るせーなー。安かったんだよ！」

経済的に恵まれていない西条くんの家にとって、1枚200円は、柄はなんであれ、ありがたかったのだ・・・。

はは～～～ん。

　カレったら。
　西条くんが同じTシャツなのに驚いて。

同じ班のわたしとペアルックになるのを避けたんだ・・・。

なーるほどー。

おかげで

「オマエ、西条とデキてんだろ～～～～」
「やっぱなー。あやしいと思ってたんだ」
「で、どこまでいったんだ？」

カレが西条くんとペアルックで、からかわれることになった。

ただし。
カレのとなりに座った千葉くんだけが
「んんん？オマエ、女の臭いがするっ！」
「え・・・・！」

なんて鼻のいい・・・・！ビックリ！

「あーーーー！わかったーーーーー！この臭いはーーーーー！」

ドキッ！

「早苗さんの臭いだ！」
「孝昭の姉ちゃんの～～～～？」
「マジ～～～～～～～～～～？」

マジじゃないよ・・・。
マジで間違えてるよ・・・。

「んなわけないだろ!?」
弟、孝昭くんが否定。

「おかしいなー。確かに女の臭いなのに。俺のアンテナが妖気に反応してる」

「あ～～～～～！ホントだ～～～～～」

妖気って・・・・。
反応って・・・・。

わたしとしては、
正解してほしかったような、ほしくなかったような。

「はい。全員揃ったら食事の前に、工藤先生からのお話がありま～す」

「先生、さをりちゃんがオシッコ行ったきり、もどってきませ～ん」
「ナオ子ちゃんもオシッコ行ってもどってません」
「アキちゃんはウンコで～～～す」
「さやかちゃんもウンコ～～～」
「みずきちゃんもウンコ！」
「麻奈ちゃんもウンコです」

「食事前は、ウンコの報告はしなくてよろしい！」

もっともだ。


夜になり、初日の就寝。

わたしは、カレと取り替えた「焼きもちイッパイ」Tシャツに、抱かれて眠った。

って・・・。

眠れるわけないじゃない・・・。

どうしよ・・・？

「どうしたの？和美、眠れないの？」
と、となりの布団から葉月ちゃん。

「え・・・うん」

「ウンコ行っとけばよかったのに」

ちがうよ・・・。


＜弊ブログ規定により冷遇。苦情は受付けません＞



人気ブログランキング｜ブログ村ランキング

　お知らせいろいろへ→
　第53話へ→

　▲目次へ

関連記事

• 第53話 修学旅行特別編 美少女H
• 第52話 修学旅行特別編○○ちゃん
• 【班編成終了】