ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜シリアスモード、入ります＞

← ← ← ←

「アニキぃ！ありやした！」

「え！下着が？」
「はぁ？何言ってんだ？ボウズ？」

「あー、ガイコツ団だけの秘密だ。そいでなにがあったって？」

「年賀状っス！ババァからの！実家の住所バッチリ！」

「ほんとか！でかした！早乙女！」

（実際、金貸しによる夜逃げの行き先探しは、刑事さながらだった）

「どれどれ・・・どこだってぇ？A町？」

アニキ分の男が、サングラスをとり、年賀状に目を落としました。

とたんに西条くん、
「あ！お前の顔！見覚えある！」

「はああん？」

「お前、学校来てたろ！」

「ああ？」

「学校来てゆき姉見張ってたヤツだ！まちがいない！」

そう言うなり、ヤクザ男からハガキをとりあげると、

「な、なにしやがる！ガキぃ！つ、つかまえろ！早乙女！」
「へい！」

逃げ出す西条くん！

「なにやってる！さっさとつかまえろぉ！」

→ → → →

「こっちだ！」

久保くんに導かれるまま、体育館の外へ飛び出したまではよかったのですが。

「誰もいねぇぞ？」

ひとっこひとり見当たりません。

「いや。間違いねぇ。そこの電柱の陰から男がこっち覗いていたんだ！」

「え・・・それって・・・・ひょっとして」

「心当たりあるのか？西条」

「・・・アキ子姉ちゃんじゃ？」

「男つってるだろ!?」



＜アキコ姉ちゃん=ご存知『巨人の星』の飛雄馬の姉＞

手分けして捜しましたが、男は見つからず終いでした。

「用務員さんかなんかじゃないのか？」
「用務員が電柱の陰に隠れてるか？」
「だから明子姉ちゃんじゃねぇのか？」
「絶対ちがう」

僕もちがうと思います。

体育館にもどると、団員はもう『カエルの王子様』の騒ぎではなくなっていました。

「いた？」

「いや・・・いなかった」
「久保がでかい声たてるから」

「わりぃ・・・・ところで俺、自分探し終わってないんだけど・・・」

「あとで探せ！」

しかし、劇団員たちには、少し心当たりがあるようでした。
普通なら質問責めになりそうなものを、誰もそれ以上、口にしないのです。

特に、弥生ちゃんは、僕たちが外に出てからと、あきらかに様子がちがいました。
なにかに怯えているようでさえあります。

「なにか心当たりでもあるんですか？」

たずねる僕を、西条くんがさえぎりました。
「ま。いいじゃん。いなくなったんだし。まー、気ぃつけて帰るこった」

春香さん、
「わたしたちももう帰ったほうがいいわね。弥生」

「う・・・うん・・・・」

「ねぇ。キミたち、バイクなんだったら、弥生のこと送ってくれないかしら？」

「へ？」

「キミたち、強いんでしょ？」

久保くん、
「まー、操縦士を除いてな」

余計なお世話です。

「じゃ、お願い！」

僕にすれば、駐在さんの前任地は、もともとの目的地。
が、ここで足を伸ばしたら、午前様まちがいなしです。

「ね、ね！王子様でしょ？」

「操縦士です」

「操縦士には聴いてないわ。ね、お願い！王子様」

さいですか・・・。
弱いって哀しい・・・。

弥生ちゃんは、この時、遠慮もしなければ否定もしませんでした。
ただ、黙っていただけ。

つまり。久保くんの見つけた明子男は、弥生ちゃんとなんらかの関連があり、春香さんたちも、その事情を知っているように思えました。



「じゃーー、姫は王子の俺が乗せてくから。お前、西条のケツに乗ってけ」

バイクに乗った久保王子。
今日はいいとこ取りです。

「すみません・・・みなさん・・・」

「まぁ、いいってーーーーー」

というわけで、午前様帰宅覚悟のA町ツアー。

運転しながら西条くん、
「なーーーーーー。あの女さーーーーーーー」

「え？弥生さんのことーーーーー？」

「そうそう、なんで高専なんだと思うーーーーーー？」

「えーーー？頭いいからなんじゃないのーーーーー？」

「頭いいだけなら学区ならKJ館だろーーーーーー？」

「まーーー、そりゃそうだけどーーーーー」

確かに、高専に入れる頭があれば、学区内であるKJ館は楽勝ですが、あえて工業系が好き、ということも考えられます。
そうでなければ、学区を超えて入る意味がありません。
（高専のみ、学区に関係なく入学することができる）

「そんな女ーーーー、会ったことあるかーーーーーーーー？」

ありません。
女子なら、KJ館に入れるのなら迷わずKJ館です。
ただし、高専には、短大卒と同じ資格が得られる、ということと、圧倒的に就職率がいい、というメリットもありました。
それでも狭き門。選ぶ女子は、本当に限られていたのですが。

「なに言いたいんだーーーーー？西条ーーーーーー」

「俺、おぼえあるんだよーーーーーー」

「なにがーーーーーーー」

「学校、見張られてた女ーーーーーーー」

それが幼い頃の「ゆき姉」のことを言っていることに、僕はまだ、気づいていませんでした。

ただ、普段なら、久保くんが弥生ちゃんを後ろに乗せたことにだけ不満をもらすはずの西条くんが、そのことにまったく触れないのが奇妙には思えたのですが。

「会った時から思ってたけどーーーーー、あの女ーーーー、似てるーーーーーーーーー」

「誰とーーーーーーーーー？」

「なんつーかなーーーーー、陰のひっぱりかたがーーーーーーー」

「明子姉ちゃんのことーーーーーーー？」

「お前ってーーーーーーバカだなーーーーーーーーー」

てめぇが言ってたんだろーが！




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