ぼくたちと駐在さんの700日戦争

それでも日曜日、ここに「小川」が来るのは間違いない・・・。

とすれば、弥生さんと連絡をとらないと・・・。
あ。それには、まず久保を通して・・・。
いや、劇団の合同練習に行けば・・・・。
あ、そのためには井上を口説いて・・・・。
いや、奥さんから当たるっって手も・・・・。
あ、そのためにはまず駐在さんか・・・・。

　あ～～～～～！めんどくさい！
　やってられっか！

「なにキレてんだ？おまえ」

敵に姿を見せずに闘うってだけでもタイヘンなのに、
当人は会うこともできず、連絡はいちいち友人を通して。
その友人も、僕にはなにも教えない。

グレート井上くんは、「友情はみかえりを求めぬもの」とは言いますが、別次元にむずかしいことです。

公衆電話。
「久保ぉ！弥生さんと直接連絡とらせろ！いいな！」

次、
「井上！次の合同練習は出るからな！」

そして最後が一番たいへんです。

「孝昭、西条んち連れてけ」

なにかを守ろうとする時には、情報は絶対に必用です。
西条くんは西条くんで動いているようですが、示談屋の交渉は、ずっと僕ひとり。
しかも、バカがかたっぱしからこっちの情報たれながすし・・・。


西条くんは、なんとこの日、なんのことなく家にいました。

　こっちが危ない橋渡ってる時に・・・・！

表に停めてある原付でさえ腹立たしく思えます。

「孝昭。先に帰っててくれる？」
僕は、西条くんとはひとりで会うことにしました。

「あん？いいのか？」

「うん・・・・・・」

できれば、僕と西条くんが争うところを見られたくありません。
孝昭くんなら仲裁に入るでしょうから、そんなことになったら一大対決です。

「わかったぜ」

「早苗さんによろしく」

「よろしくは言っておくが、許してくれるかは話は別だぜ？」

「うう・・・・・わかってるって・・・・」

なにしろ尿瓶に花束。
早苗さん、相当に「キテ」ました。

ま・・・・そっちの「危ない橋」は、後でいいや。こっちが先。

「西条ぉーーーーーーーーーーーーーー！」

西条くんは読書中でした。

「あー、よかった。もうちょい後に来られたら、とってもマズいとこだった」

どういうタイミングの話でしょう・・・・。

「西条。言え！」

「言えって・・・・？だからよ。今、すっげーページ見つけて・・・」

「今の話ではなくっ！」

誰が西条くんの読書の成果を知りたいでしょう？

「弥生さんに関することだ！惚れたのか？惚れたなら惚れたとして・・・」

「あー・・・・そっちか」

「そう！」

「ダメだ」

「ふざけんなーーーーーーーー!!」

僕は西条くんの襟を押さえました。
武芸の達人、西条くん。そもそも襟をつかめたことが奇跡ですが
僕の本気を標すには、これしかない、と思ったのです。

そんな僕を見て、
西条くんは、ようやく観念したかのように、

「わーった、わーった。落ち着けよ」

僕を諭しました。

「実はよー。駐在から口止めされてんだ」

「駐在さん・・・・から？」

やはり、西条くんを同乗させた際に、なにか重要なことを教えられていたのです。
しかし、それと弥生ちゃんとのつながりがわかりません。
つながりと言えば、A町という地理的条件だけ。

「あの日よ。駐在は、パトカーん中でな？」

「うん・・・・・・」

← ← ← ← ←

「西条」

「ん？」

「お前にだけ教えるが・・・・」

「ああ・・・・」

「女って×××××××××のとき××××××××××××なのって、知ってるか？」

「え！ホントかよ！」

→ → → → →

「バ、バカヤローーーーーーー！その話は駐在さんから聴いた！」

「ええええ！意外に口軽いな～。駐在も！俺にだけとか言っておきながら」

「こっちはマジメなんだぞ！西条！お前とちがって、僕はケンカ弱いんだからな！」

「わかったわかったってー」

再びシビックパトカーでのことを話す西条くん。

← ← ← ← ←

「西条。お前がさがしてるヤツな」

「あ！ケンイチ兄ちゃん？」

「居場所。教えてやらんでもない」

「やっぱ知ってんのか！」

「まぁな。ただし条件がある」

→ → → → →

その条件と言うのが、
「僕たちに話すな、ってこと？」

「そういうこと」

「で？どこにいたんだよ！」

「それがなぁ・・・・・」

驚きでした。

「こ、こうちしょ？」

「そ」

「それって・・・・・四国の？」

「高知署じゃねーよ」

まぁ・・・そりゃそうでしょう。

← ← ← ← ←

「ケン坊は、執行猶予がふたっつもついてる。執行猶予付きのヤツは、警察で住所がわかる」

「お、教えてくれよ！駐在！」

「だったら、お前ら。今、関わってるグロリアから手をひけ」

「なんでだ？」

「考えてもみろ。執行猶予ついてんのに、ママチャリなんぞに利用されて、またヤバいことやられたら元のもくあみだ」

「なる・・・・ほど・・・・」

「お前らのせいで、ケン坊の人生を棒にふらせるわけにはいかん。またそういうのが好きなんだ。ケン坊ってヤツは」

「うん・・・・だよな・・・・・」

「だいたいな。金のからんだプロってのは、そのへんのイザコザとはワケがちがう。仲間、危ないめに会わせたくないだろ？どーもママチャリってのは、そのへんの区切りがわかってねぇからなぁ・・・・」

「うん・・・・・」

→ → → → →

「そういう・・・・ことだったのか・・・・」

「ところが、お前、奥さんを劇団に誘ったろ？」

「うん・・・・・」

西条くんの立場は、なくなったわけです。

「悪かったよ・・・・・」

しかし

「弥生さんとのつながりって、それだけ？」

「ちがう」

「やっぱホレたの？」

「ち、ちがうって・・・！」

こっちの返事は、少し怪しそうですが。

西条くんの話は、はるか昔に遡りました。

「昔よ。まだゆき姉の道場があった頃にな。俺よりずっと上の兄弟子がな。免許とったんで車買ってもらった」

僕は黙って聴いていました。



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